独自の世界観を貫くロックバンド「THE BACK HORN」と鬼才映画監督・熊切和嘉。音楽・映画界で唯一無二の地位を確立してきた両者がタッグを組み、カテゴライズ不能な「光の音色-THE BACK HORN Film-」を生み出した。荒涼とした大地を満たしていく温かくも、ひりつくサウンドと光――「言葉や感情を音楽で表すという映画」として完成した本作に込められた思いとは? バンドメンバー4人と熊切監督に、たっぷり1時間語ってもらいました。

Artist:THE BACK HORN × 熊切和嘉監督
Interviewer:MYMD

――――第12回ウラジオストク映画祭(9月13~19日開催)でのワールドプレミア、お疲れさまでした。ロシアでの反響はいかがでしたか?

熊切和嘉監督(以下、熊切監督):ロシアの方はTHE BACK HORNを初めて聴いたと思うんですが、上映後に拍手が起こって伝わった感じがしました。上映後の質疑応答では、マイクを離さずに映画がいかに素晴らしいかを語ってくれる人が現れて、「ストーリーと音楽が融合した唯一無二のスタイルを持った映画だ」と言ってくれて、嬉しかったですね。

――ドラマパートとライブパートに分かれた今までに観たことがない形の作品ですが、どのように企画はスタートしたのでしょうか?

松田晋二(以下、松田):「音楽を好きな人が映画館に観に来てくれるような音楽映画を作りたい。THE BACK HORNだったらそういう可能性があるのではないか」という話をいただきました。そこから、ライヴ映画はどうだろうという話も出たのですが、ライヴってお客さんからもパワーをもらいながら循環してその場で演奏になっていくので、その日しか感じられないものがライヴだという気持ちがあって。ツアーやライヴDVDとしてその瞬間を収めたものは今までにも出しているので、同じようなものよりもっと可能性の広がるものが作れたらいいなという漠然とした思いから始まっていったんですよ。

熊切監督:去年末に、THE BACK HORNの映画を撮らないかという話をもらって。実は、初期にPVを撮らないかっていう話をもらったことがあるんです。その時はスケジュールが合わなくてできなかったけれど、THE BACK HORNが好きだったので、15年くらい経って再び話がきたことにすごく縁を感じて、ぜひやりたいと思いました。普通のライヴ映画にはしたくはないというメンバーの思いは聞いていたので、サイレント映画を伴奏つきで見せるというか、セリフはないけれど音楽で感情を語るようなものを考えていました。

――熊切監督はデビューから、THE BACK HORNは結成から15周年という共通点があるみなさんですが、一緒に作品作りをしたいという思いはずっとあったのでしょうか?

松田:最初から全員が熊切監督を知っていたわけではなかったのですが、作品をたまたま観ていたりして、どういうものになるかわからなけれど、感覚でいいものができそうだとピンとくるものがありまして。一方で、自分たちの演奏シーンをしっかり映してもらうこともなかなかない機会だったので、それもすごく興味がありました。お客さんは入れないけれど、生演奏をしてPVでもない。通常のライヴだと撮れないようなカットや演奏シーンもしっかり撮ってもらいつつ、映画としては監督と一緒にやることで新しいものが生まれるんじゃないかなっていう期待のもと、やることになりました。

(C)2014 THE BACK HORN Film Partners

――THE BACK HORNの楽曲と熊切監督の作品は、人間の奥深いところをとらえている点が非常に似ていると感じます。一緒に作品作りをしてみて、お互いにどのような印象でしたか?

菅波栄純(以下、菅波):不思議な人で、大雑把に見えるんですよね。

一同:(爆笑)

菅波:失礼な言い方になっちゃいましたが(笑)、大雑把というか勢いでガーッといく人に見えるけれど、監督の映像はすごく緻密な感じで、映像の中の隅々にある物の佇まい、色、汚れ具合とかが端っこまで完璧な気がして。しかも、リアルさとそこにいる人の気持ちが背景まで滲み出ているような幻想的な感じが混ざっている映像だと思うんです。そんな風にすごく緻密な人なのかなと思ったら、豪快なところもあって。冒頭の長回しのシーンで、「木の配置がすごく良かったっす」って言ったら、「全然意識してないんだけどね」って言われたりして(笑)。奥が深い印象があります。

山田将司(以下、山田):取材やライヴの打ち上げでお酒交じりにしゃべってみて、監督の人間性が見えたというか……愛に溢れた人だなって(笑)。なんでオレ、こんな言葉しか出ないんだろう(笑)。漫画みたいになっちゃったけれど、受け入れてくれる雰囲気がすごい。無理にこうしようっていう感じがなくて、その場でしゃべることがなかったらそれもありっていう雰囲気が出ていて、自然な感じがしてそれがすごく優しいんですよね。

岡峰光舟(以下、岡峰):映画を一緒に作るって決まってから、今までの作品を見せもらったんですが、寒いところだったら寒そうな感じ、夏の畳のうだるような暑い雰囲気が画からすごく伝わってくる人だったから、オレらの演奏の空気感もストレートに伝えてくれる人なのかなって。もわっとした感じや、感情も含めた空気感を描いてくれそうだと思っていました。

松田:僕はすごく寡黙な人だなと思っていたんですよね。将司と近いかもしれないけれど、言葉は発しないけれど画で自分の意思を伝えるという思いが伝わってきて、信頼感を感じて全部任せていいんだと思っていたんです。でも、最初の打ち合わせの後に僕だけ飲みにいく機会があって、「オレはこうなんだ」っていう爆発の瞬間があって、やっぱりすごい狂気を抱えていて世の中の完成されたものに挑んでいきたいっていう野心がある人なんだなあと。寡黙だけど、表現に対するエネルギー、美学を貫き通す熱を持っていることが感じられたので、絶対これはいいものにできるなっていう実感がありました。

熊切監督:僕は彼らの人柄が本当に好きです。もちろん音に対しては真摯に向き合っていると思いますし、ある種不器用に、ちゃんとあがいて生きている感じがして、そこが好きですね。

――ロシア・ウラジオストクで撮影を行い、このような物語になったのは?

熊切監督:できるだけシンプルなストーリーにしようと思っていました。メンバーと会う前に、栄純君の「世の中が安定している時ロックは必要だけれど、そうじゃないときにロックは必要なのかという思いがある」と言葉を間接的に聞いていて、すごくわかる気がしたんです。「絶望の果てに死のうとしても死ねない」と物語が浮かんできて、風の音がメロディのようになって音楽が降り注ぐような出だしにしようと考えたんです。それから、すべてが過去になった老人を主人公にして、いろいろなことが思い出されていくというストーリーが生まれていきました。

菅波:(話を聞いた時に)写真を資料として見せてもらいましたよね? それを見て、ロシアという国ではなく、何処でもないという設定で、何かが終わってしまった後の世界のことなのかなと思って。すごくぴったりで、なかなかこんな場所ないよなって思いました。

――老人の記憶や感情が曲で表現されていますが、選曲はどのように行われたのでしょうか? 曲の並びだけでもドラマチックな物語性があるところが、ライヴセットリストのようですよね。映画もバンドのライヴとシンクロする部分が多かったです。

松田:確かに、ライヴの部分だけ見てもそういう繋がりがあるかもしれないですね。監督から、ストーリーの間にこんな曲がきたらどうだろうかという案をもらって、自分たちでも「THE BACK HORNの曲の魅力をストーリーと合う範囲で選曲できたらな」と考えていきました。自分たちのライヴの魅力を伝えられる曲がありつつ、単純に心情を歌詞で伝えるのではなく、そのシーンが色濃くなったり相乗効果がでるような選曲を監督に伝えて、逆にストーリーの構築をちょっと手直ししてくれたりといったやり取りがありましたね。

――「この曲を!」という強い思い入れがあったのはどの曲でしょうか?

松田:(選曲は)感覚に近かったのですが、「『コオロギのバイオリン』が絶対ここできてほしい」という熱い思いを監督からもらっていたので、軸になっていたかもしれないですね。

熊切監督:ストーリーを考えていく上で、クライマックスに「コオロギのバイオリン」を持ってきたいと思ったんです。ドラマチックな曲だし、その曲をあえてほぼライヴのみで見せたいっていう思いがあったんですよね。ストーリーとライヴが合わさっていく中で、あえてライブシーンだけドカンと見せるとボリューム感があるし、クライマックスにはまる気がしたんです。

――ライヴとドラマを融合させるうえで、今までの映画作りとは違った作業、思考が必要だったのではないでしょうか?

熊切監督:バンドのライヴを撮影したことがなかったので、曲ごとにテーマを決めてやっていました。「月光」はできるだけ見せすぎない感じで静かに始まっていく感じで、「アカイヤミ」だったら、暴動シーンという感じで手持ちの赤い照明で荒っぽくやろうだとか。最初、編集では膨大な量の映像素材に呆然としたんですが、だんだんメンバーの演奏が会話劇のように見えてきて、そこから素直に繋げていくことができました。響き合っていますよね。

菅波:面白いですね、その感覚。

――メンバーのみなさんは、これまでにも映画監督とPVなどを作られていますが、新しかったことは?

岡峰:1曲ごとにセッティングチェンジがあったので、間がある感じが普通のライヴではないし。PV撮影だったら1曲に1日かけるけれど、今回は10曲くらいに丸一日かけているので、緊張感をずっと保ってやるのは初めてで、難しかったけどできて良かったですね。

松田:お客さんのパワーがない分、どこに向かって出すのかという新鮮な刺激がありましたね。カメラの向こう側、映画館で見ているであろう人たちに向け、放つというよりは音に込めるという感じでしたね。

菅波:シンプルに演奏に入り込む感じでスタートして、だんだん何も考えなくなっていった感じがありますね。普通のライヴだと、前の曲から繋がった流れで見せていく意識で演奏しているし、お客さんが見ているからパフォーマンスとしての意識もある。それは、ライヴに必要な頭の働かせ方だと思うんです。でも、この時はそういうものが一切必要なかったから、すごくシンプルに演奏と曲に向き合えた体験だったと思います。熊切さんが撮ってくれる映像に対する信頼感もすごくあって、この人の映像の中に入ってみたいとまで思っていたから、ミュージシャンとしてやることに集中していた気がするな。

――熊切監督はみなさんの演奏を間近で撮影して、編集するという作業はどうでしたか?

熊切監督:とにかく何処まで近づけるかという感じでした。カメラのレンズが曇るくらいに近づいて彼らの熱を映しとりたくて。とにかく現場は楽しかったです。良い画も撮れていましたし。それだけにいざ編集を始めるとなった時は、膨大な量の素材を観て呆然としました。映画の時と違って、演奏シーンは基本5カメで撮ったので、最初はどの画を使えば良いのか悩んでなかなか進まなかったんですが、彼の演奏が会話のように見えてきてから、素直に気持ち良く繋げるようになりましたね

菅波:演奏しているときは思わなかったけれど、ほかのメンバーの音だけ聞いて、演奏に集中して感じはありましたね。ほかに意識する必要がないから。

山田:あんまり考えすぎてもしょうがないから、ライヴで曲に対して自分が沁みこんでいるところが出てくるままにやるしかないなみたいな感じはありましたね。

(C)2014 THE BACK HORN Film Partners

――作品が完成してみて、みなさんにとってどのような作品になりましたか?

松田:最初は、とにかく今まで見たことがない音楽映画を作りたいっていうことだったんですが、監督と出会ってすごい化学変化や、表現として高め合いながら新しいメッセージを作れるんじゃないかと思うようになりました。曲が映像と一緒になると情報が増えるから、意味を持たせすぎてしまう怖さ、言い過ぎてしまう危険性の心配もあったんですけれど、監督が委ねてくれるのが感じられたし、THE BACK HORNの曲を愛して、威力を発揮できるような映画に仕上げてもらえた感じがします。それによって、何か新しいものが生まれたんじゃないかと思うし、受け取ってもらえるメッセージを作れたなっていう自負はあります。

――松田さんの中での受け取ってほしいメッセージとは?

松田:感覚で感じ取ってほしいですね。映画は好きだけど普段あまり音楽を聴かない、バンドの演奏は聴いたことがない人たちも観る機会があると思うし、いろいろな人がいるなかで、説明がないと怖い部分もあると思うんですが、ザワザワッてなってほしいなという願いがあります。自分の中でもザワザワした部分があるので。

山田:ザワザワも何かが動く、アクション起こすためのきっかけですよね。

松田:そうそうそう。映画館を出た後に、ちょっと晴れやかな足取りになる予感がしています。

岡峰:日々のライヴを自分では見られないから、自分らを映画館の大画面ででっかい音で観る感じがすごく新鮮で、映画館で観るっていうのはこんなに面白れえことなんだって思いました。普段のライヴと映画館で見たTHE BACK HORNの印象が一緒かはわからないですけれど、オレらも疑似体験できて、意外とかっけえなって(笑)。人に言われても、自分らじゃピンとこないことってあるんですよ。

菅波:確かに、「またまた」みたいな。

岡峰:それが「こういうことなのか」って思ったりして、機会をもらえてありがたかったです。もちろん映像の格好良さもあるし、ストーリーと演奏が絡んでいるからこそ、そういう感情になれるのかな。観てくれた人もそうなったらいいですね。どういう映画かはパッとは説明できない新しいものだとは思うので。あと、観終わった後に爽快感もすごくありましたね。

松田:説明過多の今に対して、「怖くないんだよ」っいうことをすごく感じるんですよね。この映画を作るにあたって、自分の中でそういう戦いがあったのかもしれない。もっと説明した方がいいんじゃないかっていう思いがありながら、でも十分描けているからあとは託して大丈夫なんだっていうやりとりが監督の映像や自分たちの選曲にあって。そういう強さというか想像力が、投げかけられたんじゃないかなって改めて思います。

山田:映画の軸が「生」「生きる」「愛」のような感じがして、説明する必要がないというか、観れば何か伝わると思うし。映画でどん底から始まっていくところは、自分も普通に生活していて感じることだけれど、1回堕ちるとこまで堕ちると後はもう浮いてくるしかなくて、そういう体験が映画でできるのかなって。心の旅ができる映画だという気がしていて、背中を押して寄り添ってくれる音楽があったり、観終わった後に大切な人の存在を確認したくなったり、その人との関係をもうちょっとちゃんとしようかなと感じられるような映画になっていると思います。

菅波:自分たちが画面に映るので、感情移入できないんじゃないかなって思ったんですけれど、今回、将司のパフォーマンスが特に良くて、普通にジーンと感動して。大画面の臨場感で味わったことがなかったから、やっぱりエモーショナルなバンドだっていうことが確認できた。あと、オレらの音楽も監督の作品も、簡単に泣かしにかかりましょうっていうものがあまりないじゃないですか。説明できないけれど確実に泣けてくる感じで。THE BACK HORNと監督の共通点のひとつは、何かに執着を持った人物が出てくることだと思っていて、今回の老人にとってはおばあさんへの思い、人生を諦めたつもりでいるのに何か捨てきれない執着があって、それがおじいさんを生かし続けている。執着ってキレイなものじゃないけれど、それが人間臭くて、生きているってことなのかもしれなくて。だから、みんなが言っている清々しさを感じるのは、そういう執着からの解放感なのかなと思います。

熊切監督:まだ客観的に見れないですが、自分としては変わった映画ができたらなと思っていたので、「観た後に泣きました」と聞くと伝わったんだなって感じがします。特殊な映画なので、ウラジオストクのリアクションも最初は本当に不安でしたけれど、こういう風に観てほしいっていうものが伝わったなっていう感じがあったので。観る人に伝わればいいなという思いです。

――また一緒に作品作りをするとしたら、次はどのようなものを?

松田:今回は、曲を聴いていただいてストーリーができましたが、監督が思い描くストーリーに新しく曲を作る逆パターンですね。今回は、ある程度THE BACK HORNの世界観や描いているテーマ性を意識したストーリーだったと思うので、まったく別のところで生まれたものにどういう曲をつけるんだっていう挑戦があってもいいですし。ただ、どういう曲が生まれるか面白そうだと思いましたが、10曲も作るのは結構大変かな(笑)。

菅波:それだけ作るんだったら、1曲は熊切さんもバンドに入って参加してもらって……。

熊切監督:アンプ倒す係(笑)。

菅波:アンプを倒しに来る(笑)。

松田:効果音で繋いで、なかなか曲が出てこない(笑)。今回は曲を活かしてもらったので、主題歌が何曲もあるイメージですね。あとは単純に、今回は入らなかったけれど、監督がこの曲を入れたいって言ってくれた曲がほかにもあったので、それも何かやってみたいし、いろいろありますね。


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