前作『Within and Without』で一気に音楽シーンにチルウェイヴという新たな潮流を築き上げたWashed Out。今なお、この流れを汲み取り生まれだす音楽が溢れる中、2年ぶりに届けられた新作『Paracosm』は、暖かくて明るい、非日常的なエスケーピズムを感じさせるものに仕上がった。前作とまるで対をなすような作品とも思われるが、この対比はWashed OutことErnest Greeneのイマジネーションに富んだ楽観的世界が構築されたものだという。チルウェイヴのパイオニアとして、どのように新作に取り組んだのか、前作を振り返りつつ語ってもらった。

Artist:Washed Out
Interview & Text:Shoko Fukuda
Photo:Shae DeTar

――今作はいつ頃から制作を始められたのでしょうか? 収録楽曲は前作発表以降に作られたものですか?

Ernest Greene:うん。ツアーで移動してる間にも曲を書く人たちがいるのは知ってるけど、僕はそれができないんだ。家で落ち着かないとできないし、曲のアイデアが実際に形になるまで、何週間かいろいろ試してみないとダメで。だから今回は曲を書きはじめたのが……ツアーから戻ってきた去年の11月の初めくらいかな。アルバム制作に集中しはじめたのがその頃。そこから3ヵ月くらいの間に新曲を全部作っていった。ほとんどの素材をその期間に書いて、そこからまた3ヵ月の間に歌詞を書いたりして、アルバムを完成させていったんだ。

――前作インタビュー時に、プロデューサーのBen Allenとはとても相性が良いと仰っていましたが、今作でも彼を起用された経緯を教えて下さい。また、今作での彼との制作はいかがでしたか?

Ernest:Benが優れてるのは、若いアーティストに昔ながらの技術、よりオールドスクールなテクニックを試させるところなんだ。彼はオールドスクールな録音技術に熟達していて、マイクの位置やサウンド・エンジニアリングに通じてる。僕は最初、そういうことに関してまったく無知だったんだよ。ただ彼に自分が欲しいものを伝えることはできるから、頭の中で鳴ってるサウンドを話して、彼が技術的なノウハウでそれを形にしてくれる。その音を見つけるのに適切なマイク、コンプレッサーを彼が選ぶんだ。あと彼自身ミュージシャンとして才能があるから、僕がすごく曖昧で抽象的なことを思い付いても、それをちゃんと解釈してくれるんだよ(笑)。僕の両方のアルバムで楽器もいろいろ演奏してて、実際僕よりミュージシャンとして技術的なところではずっと才能がある。だから僕がある楽器のパートを思い付くと、自分で弾く前に彼がぱっとやってくれることも多いんだ。僕がやったら30分はかかるところを、彼なら2分でできる。その意味でも彼と組むのはすごくうまくいくんだよ。

――制作面において、前作と異なる点などはありましたか? もしあればどういった点で異なったのでしょうか?

Ernest:今でも基本的には一人でコンピュータで作業してるし、ドラムやベース、時々はギターみたいな楽器のパートを自分で書いてる。ただ、そこが新作で一つ違うところなんだけど、今回はそういうやりかたを変えようと思ったんだ。前に進んで、進化するために。これまでになくコンピュータに頼らず楽器を演奏したし、その意味では音楽的にかなり変わったと思う。たぶん、これまでもこれからもずっとそうなんじゃないかな。僕は同じようなアルバムを繰り返し作りたくないし、つねに新しいテクニック、新しいやりかたで実験したいと思ってるから。

――前作はセールス的にも成功し、音楽シーンにも大きな話題と影響をもたらしました。それによるプレッシャーなどもあったかと思いますが、その成功を受けて、今どのように感じていらっしゃいますか? また、今作は前作の“Paracosm”的な作品、対をなす作品なのではないかと感じましたが、ご自身にそういった意識はありましたか?

Ernest:もちろん。たぶん、一作目からの反動に関してはかなり意識的で……僕にとって一番大きかったのは、『Within and Without』で2年間ツアーを続けたことだった。あのアルバムはシンセ中心で、それがライブのやりかたをかなり決めたんだよね。ほとんどシンセで演奏することになったんだ。だからツアーから家に戻ったとき、僕が一番やりたくなかったのは、またシンセを弾いて曲を作ることだった。だからこそ、さっきも言ったように今作のアイデアとして、もっと多彩な楽器を使おうとして……そこからいろんなサウンドを試しだして、それが新作のサウンドになっていった。アコースティック楽器、オーケストラ的なサウンドの楽器、ストリングスがたくさん入ってるんだ。そこは絶対に前作からの反動だね。

――Washed Outの登場により、音楽シーンではチルウェイヴというジャンルが生まれ確立されました。今改めてそういったシーンを振り返って感じるものはありますか?

Ernest:ちょっと変な気持ちだな。当然、音楽ジャンルを作ろうとか、ムーヴメントを起こそうとして始めたわけじゃないから。僕自身かなりいろんな音楽を聴くし、幅広いジャンルからアイデアを得てると思う。ただ意識的に、何かのジャンルに当てはまるような曲を書こうとすることはないんだ。ただ、そういうふうになったこと自体は幸運だったと思ってる。同じようなことをしてる大勢と比べて、結果的に僕を際立たせることになったから。それは感謝してるんだ。そう、今回のアルバムはチルウェイヴがリプリゼントするものに対する反動なのかってよく訊かれるんだけど、僕自身は全然それはなかったと思う。僕としてはずっとやってきたこと、Washed Outの他のレコード全部にある同じアイデアを取り上げて、それを形にするのに違う楽器、違うアプローチを取っただけなんだよね。やっぱり、Washed Outのアルバムになってると思う。

――アルバムのアートワークをはじめ、公開中の「It All Feels Right」「Don’t Give Up」リリック・ビデオで使用されていた画像も、カラフルでトロピカルなものでしたが、今作は南国を思わせる音やリズムなど、明るく非日常感溢れる雰囲気を強く感じました。そのようなサウンドになったのは何故ですか?

Ernest:その通り。今回のアルバムの最初と最後には、僕がマイクを家の外に置いて拾った音が入ってるんだ。僕にとってはそういうのどかな、戸外の牧歌的なフィーリングがすごく重要だったから。そこは去年、僕が街中からジョージア州アセンズのなんにもない田舎に引っ越したことが大きいと思う。そこがこのアルバムの大きなインスピレーションになったんだよ。制作中、ずっと鮮やかな色が頭にあったんだ。花々や自然……音楽的なアイデアも、そういうものをどうすれば音として表現できるか、サウンドスケープとして描けるか、考えるところから生まれてきた。たとえば、僕にとってはよく晴れた春の日は……きらきらしたハープの音、鈴の音みたいなヴィブラフォンのサウンドだったりする。あったかくて気持ちいい音だね。そういう雰囲気をアルバム全体に持たせたかったんだ。楽観的な感じで、メジャーキーで、聴いていてすごく気持ちいいものにしたかったんだよ。

――『Paracosm』「Great Escape」といったタイトル、また1曲目の「Entrance」で作品の中へ誘う入口を表すなど、今作で別世界が強く意識されたのは何故でしょうか?

Ernest:このタイトルを付ける前に、僕の頭にあったのが……一つの場所っていうか。僕にとってこのタイトルはデイドリーム=白日夢、空想を表す言葉なんだよね。だからアルバムの冒頭、「Entrance」はある意味移行部分で、夢の中にゆっくり誘われる。で、それに馴染むと二曲目が始まるんだ。ゆっくり目を開くと、突然自分がまったく違う場所にいるのに気付く感じ。僕にとっては『不思議の国のアリス』みたいなストーリーだね。アリスがうさぎの穴に落ちて、気付くとまったくの別世界にいる、っていう。ただ、このアルバムで僕が考えていたのは『不思議の国のアリス』みたいな突飛な世界じゃなくて、むしろ理想的な場所っていうのかな。アルバムを聴いている45分間、ずっと夢の中にいるようなね。

――J.R.R.トールキン『中つ国』、C.S.ルイス『ナルニア国物語』、ヘンリー・ダーガー『非現実の王国で』などの世界観を追求されたということですが、ご自身にとってこれらの作品や作家はどのような存在ですか? これらの作品の世界には“イノセンス”が共通してあると思いますが、今作で“イノセンス”を意識された部分はありますか?

Ernest:そうだね。僕にとってそういう物語で一番インスピレーションになったのは、想像力がいかにパワフルか、ってところだと思う。別に妖精やなんかに影響されたわけじゃなくて。想像力がああいう別世界を生みだしたこと自体に影響されたと思う。たとえそれが頭の中だけの世界だとしても。だけど、別に反動じゃないんだ。つまり、エスケーピズム=逃避主義を考えるときに、現実から逃げるっていうネガティヴな行為とする人もいるけど、これはそうじゃない。夢や空想に喜びを見出すことなんだよね。うん、今回のマテリアルの多くにイノセンスの要素があるって意見には賛成だな。それもやっぱり、僕が過去の経験の理想化されたヴァージョンを思い描いていたり、理想的な場所を想像してたことと関係してると思う。そういうふうに人生を見て、喜びを見出すことには、イノセントな部分があるから。僕が作る音楽、メロディやサウンドにはつねにノスタルジックな要素があって、そこはもう本質的って言えるかもしれない。僕がやってることって、音のサンプリングを集めたおもちゃ箱みたいなものから、何かを取りだしてキーボードに移して、それで新しいメロディを弾くような作業だったりする。すごく子どもっぽいところがあるんだよ。子どもの遊びみたいなものと強く繋がってる。だからその解釈はかなり的確だと思うよ。

――Washed Outはバンドセットでのライヴでまた違った印象を見せますが、今作はライヴではどのようになりそうでしょうか?

Ernest:そこはやっぱりすごくエキサイティングだし、イライラさせられるところでもあるんだよね。プログラミングしたサウンドで言えば、コンピュータを使えばフレキシブルにやれるから、融通がきくんだけど……実際、キーボードとサンプラーでアルバムをそのまま再現することもできる。バンドとしては僕がキーボードとパーカッション、ちょっとだけギターを担当してて、ドラムがいて、ベーシストがエレキのベースとアップライトのベース、シンセベースを弾くんだ。で、ギターがエレキギターとシンセ、パーカッションもちょっと弾く。だから、ちょっと削ぎ落としてるとはいえ、アルバムをほぼ再現できるし、テクノロジーを使ってアルバムに入ってるエキゾチックなサウンドも入れられるんだよね。うん、The Beatlesがキャリアの後半でツアーをやらなくなったのは、アルバムの音を再現できなくなったからだよね? The Beatlesでさえライブではうまくやれないと思ってた。80ピースのオーケストラとか。でも最近のコンピュータ・テクノロジーでは、そういうかなりドラマチックなこともやってしまえる部分があるんだ。


■New Release

パラコズム / ウォッシュト・アウト / CD ( Music )

よしもとアール・アンド・シー( 2013-08-07 )

定価:¥ 2,365 ( 中古価格 ¥ 712 より )