Jack Tatumによるワンマン・バンド、Wild Nothing。’10年にリリースされたデビュー・アルバム『Gemini』はピッチフォークの年間ベスト・アルバムの1枚にも選ばれるなど、早耳リスナーのみならず、最重要アーティストとしても音楽シーンの大きな話題となった。その熱狂から2年、Wild Nothingの最新アルバム『Nocturne』が完成。1stの成功を経て、今作はより意識的に“ポップ・ミュージック”に拘って制作されたという。彼の一貫した“ポップ”に対する姿勢、そして彼にとっての“ポップ”とは何なのか、Jack自身に紐解いてもらった。

Artist:Wild Nothing
Interview & Text:Shoko Fukuda

――今作の制作は’11年頃から取り組まれたということですが、どのように進行されたのでしょうか? デビュー・アルバム時と楽曲制作という点で異なる部分はありましたか?

Jack Tatum:曲を書くプロセスは前とほとんど同じだったな。今でも素材のほとんどは自分一人で、家で書いてるから。で、その曲をどんな感じにしたいか、アイデアを残しておくためにところどころ録音するんだ。僕の曲の書き方そのものはあんまり変わってなくて……。今でも曲作りってパーソナルな、一人でやる作業なんだよ。今回も全部のパートを僕が書いてるから。

――今作は何かテーマやコンセプト、目指すところがあって制作されたものですか? もしそうであれば具体的に教えて下さい。

Jack:(アルバムの制作の前)友だちが住んでるジョージアに引っ越したんだ。とにかく、いろんなことからいったん離れるのにいい場所だと思ったんだよね。『ジョージアだったら静かな生活が送れるだろう』って思えた。でも結局どうだったかっていうと、もちろん快適で、住み心地もよかったんだけど、やることがほとんどなくて(笑)。自分の時間を有効に使ってると思えなかったんだ。その頃もまだ(前のアルバムの)ツアーはあったし、なんか落ち着かなかったんだよね。そのせいで眠れなくなって。でも、それがいい結果にもなった。他にやることがなくて、音楽のことばっかり考えるようになったせいで(笑)。ずっと言ってることなんだけど、このレコードの大半は深夜に書かれたし、心が落ち着かない、うまく眠れない、そんなフィーリングから生まれてきたんだ。

――デビュー・アルバム『Gemini』は大きな反響があったと思いますが、そうした反応が今作に影響を与えている点はありますか?

Jack:うん、あのアルバムは2年ちょっと前にリリースされたわけだけど、あれからいろんなことが変わった。出した時には大したことにはならないと思ってたんだ。単にリリースしただけで……。作った曲は誇りに思ってたけど、あんなに大勢の人に聞かれるとは思ってなくて。もちろん、あれだけ成功してよかったと思う。活動を続けて、満足のいく2ndアルバムを出せたしね。こうなって嬉しいんだ。一番大きな影響は、今は自分にファンがいるのを自覚してることかな。僕の音楽を他の人たちが聴くことを意識するようになった。だから今作を作る時には、自分がやりたいことだけじゃなくて、ファンが新しいサウンド、新しいレコードをどう聴くかを考えてたんだ。だから1stで人が評価してくれた部分をキープするのと同時に、変化することも重要だった。僕自身にとって面白い作品にするためにもね。

――今作は、前作よりも浮遊感のあふれるサウンドが全面に引き出されている印象を受けました(前作まではもう少し疾走感がある印象)。サウンド面で意識された部分はありますか?

Jack:今回とりかかった時に考えてたのは、前よりもクリーンで、『Gemini』のようなサウンドに頼らないものにしよう、ってことだった。最初はリヴァーブとかのエフェクトをもっと削ぎ落としたサウンドを試したんだよ。例えば最初の曲、「Shadow」は……それでも部分的には浮遊感のある、ふわっとしたサウンドなんだけど、僕が聴くとクリーンなギター、ぱっきりしたドラムが聞こえてくる。で、他の曲ももっとああいう感じになると思ってたんだよね。ただスタジオに入って、Nicolas(プロデューサー)とやりはじめると、曲ごとに『この曲にぴったりなのはどういうプロダクションか』っていうのを話すようになった。それがすごくよかったと思う。だから、このアルバムは全体的には統一感があるっていうか、一つにまとまってたサウンドなんだけど、曲ごとに聴くといろいろ違うものが聞こえてくる。僕には「Shadow」と「Through The Grass」とでは、全然違う曲なんだよ。

――M-4「Through The Grass」のギターのリフやM-10「The Blue Dress」のイントロにみられる異国情緒なメロディ・ラインはWild Nothingの世界観を広げる新しいアプローチに感じましたが、今作で新たに挑戦された点はありますか?

Jack:どうかな? あれは楽器をいろいろいじってただけなんだけど。前作にはなかった新しい要素を取り入れたいとは思ってたけどね。たとえば「Through The Grass」ではクラシック・ギターが使われてるし、「The Blue Dress」や「Counting Days」みたいに、前にはなかったちょっと金属的なサウンドの曲がいくつかある。あれはある意味、『The Head on the Door』時代のThe Cureを参照してるんだ。どれも新しいサウンドを試してみて、前にはなかった要素を取り込もうとしてるんだ。

――表題曲であるM-3「Nocturne」ですが、今作を象徴する楽曲なのでしょうか? 表題となった理由があれば教えてください。

Jack:アルバム・タイトルが決まる前から、あの曲のタイトルが「Nocturne」だったんだよ。曲作りからレコーディングまで、あの曲が僕の中では際立ってたっていうか、好きな曲で。アルバムの他の曲もああいう感じになればいいなとずっと思ってた。ある意味、アルバムの縮図みたいな曲だったんだよ。で、アルバム・タイトルを決める時に、あの曲のムードとか、書いた時のフィーリングが全体を要約してる気がして。“夜”や“眠れずにいる気持ち”っていうテーマを含めてね。アルバム全体がそういうことについてなんだ。恋愛や、夜にすべてのものの輪郭が溶け合っていく感じとか……。夜にものを考えると、あることが必要以上に気になったり、実際より重要に思えたりするよね? そういうフィーリングなんだ。

――一貫して“ポップ・ミュージック”であることが作品の根底にあると思いますが、デビュー・アルバム『Gemini』と今作とでの“ポップ・ミュージック”における違いとは何でしょうか?

Jack:『Gemini』を作った時には、ポップ・ミュージックであることはそんなに意識してなかったと思う。でも今回はすごく意識してたし、同時にいろんな時期を経ていったんだ。ある時期には『Gemini』より変なレコードにしようと思ってたし、もっとポップにしようとしてた時期もあった。最終的には“ポップ・レコード”とすることで、僕の音楽的傾向とか、いろんなことが作品として形になると思ったんだよ。

――“ポップ・ミュージック”ということに強いこだわりを持たれていますが、現時点でそこに対しての自分なりの回答が出ていれば、教えてください。

Jack:うまく言えないんだけど、僕にとっての理想のポップは……いろんなことを意味してる(笑)。ポップ・バンドって言うと、僕にはいろんなバンドが頭に浮かぶし、それは他の人の頭には浮かばないようなバンドだったりもするから。一つ言えるのは、僕にとってのポップ・ミュージックは、そんなにポピュラリティ=人気から来るものじゃないことだと思う。むしろ曲の書き方とか、構成とか。すごくシンプルだったりもするんだけど、いいポップ・ソングって聴くと即座にわかるんだよね。ぱっと耳に入ってきて、すぐに好きになる。僕が目指してるのはそういう魅力なんだ。

――楽曲制作時は個人で、ライヴはバンド・スタイルでといった活動形式を取られていますが、その理由とは? 今後その形式を変えて(バンド・スタイルでの楽曲制作、個人でのライヴ)活動する可能性もあるのでしょうか?

Jack:それ、よく考えるんだよね。Wild Nothingが始まった時は僕一人のプロジェクトで、他の人とバンドを組んでライヴでやるのは、またそれとは違うものになっていったんだ。最初はそれが大変だった。将来どうなるかはわからないけど、今回のアルバムはやっぱり全部のパートを僕一人で書いたし……。ただ、(今作では)ドラマーやプロデューサーと一緒にやって、他の人と話しながら作ったのはよかったと思う。1stではやらなかったからね。たぶん、アルバム作りのプロセスに他の人が加わるのをだんだん許していくような、漸次的なものなんだろうな。別に僕が他人を信じてないってわけじゃないんだよ。今のところ、一番うまくいくやり方に思えるだけで。

――楽曲制作とライヴでは当然表現するものが異なると思いますが、それぞれの形式がお互いに影響を与えるもの、新たに発見させられるものはありますか?

Jack:もちろん。音楽体験として、すごく違う体験の仕方だからね。特に曲を書く人間にとっては、作曲とそれのパフォーマンスはまったく別物だと思う。僕自身としてはライヴよりも、曲を書いてレコーディングするっていうクリエイティヴな側面に惹かれるんだけど。内向的な性格だから。もともとの僕は人前で演奏するのが好きなパフォーマーじゃない。ただこの2年で、どんどんライヴが楽しめるようにはなってきてるんだ。ライヴってすごく本能的な、まったく別のフィーリングなんだよね。その時、そこで起きていることを感じて、観客が感じてることを演奏にフィードバックさせるっていう。僕にとって曲作りはすごくパーソナルなもので、内面に向かってる。その同じ曲を、ライヴでは外側に向けてアプローチしなきゃいけないんだ。

――ここ数年ドリーム・ポップとされるシーンの隆盛は目覚しいですが、そういったシーンにどういった印象を持っていらっしゃいますか? また、シーンに関わらず、Wild Nothingはどういった存在である/ありたいと感じていますか?

Jack:まあ、ドリーム・ポップっていうと、僕にとっては音楽の一つの説明の仕方って気がする。僕の音楽の全部がそこに当てはまるとは思わないけど、僕がやってることを説明する時の、ある意味表層的なタームって感じかな。別に腹が立ったりはしないけどね。(どういった存在である/ありたいかと言われても)わからない……。たぶん、そういうことは考えないようにしてるんじゃないかな(笑)。僕自身の立ち位置も……。重要な位置を占める、なんて言える自信もないし(笑)。ただ、今やってることがやれてるだけでハッピーだし、人が僕の音楽に興味を持ってくれるかぎり、やり続けようと思ってる。


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