昨年待望の2ndアルバム『This Modern Glitch』をリリースしたThe Wombats。今作でシンセサイザーをフィーチャーし、エレクトロな要素を前面に押し出すという大きな変化を見せた彼ら。しかしそれ以上に注目したいのが、そのアッパーなサウンドが内包する焦燥感溢れる歌詞の部分だ。刹那的な享楽がもたらす行き場のない苛立ちや不安。それらは常に投げ出されがちであるのだが、彼らが生み出すそのキャッチーなメロディは、高揚感を生み出すだけでなく、その想いまでをもすくい取ってくれる。まさにポップという名の処方箋だ。そんな抗鬱剤的作用をもみせる今作について、メンバー3人に振り返ってもらった。

Artist:The Wombats
Interviewer:フクダショウコ

――約3年半ぶりの来日ですね! 久しぶりの日本はどうですか?

Tord:昨日1日オフだったんだけど、ご飯食べに出かけたり、バーに行ったりしてたよ。

Dan:渋谷のホテルに泊まってるんだけど、ずっとその周りをウロウロしてる感じ。

Tord:すぐ迷っちゃうんだよね(笑)。でも迷子になるくらい東京は楽しいよ!

Dan:あと、昨日大きな地震があったよね。あれはやっぱり怖かったな。その後はカラオケに行って、Bryan AdamsやMotörheadを熱唱(笑)! 楽しかったね! 前に来日した時に出会った友人たちとも再会出来たしね。

――最新作『This Modern Glitch』のリリースから約1年経っていますが、当時から現在に至るまでの作品に対する印象の変化などありますか?

Dan:この作品は、まず曲を作るのに1年半、LAでのレコーディングに3ヵ月、その後のミキシングとマスタリングで6ヵ月って感じで、制作に2年半くらいかかったんだ。だからリリースした時は、お店にちゃんと並んでみんなに聴いてもらえるっていう安心感がすごく大きかったんだよ。それから1年くらいツアーをして、毎晩のように曲を演奏していくうちに……。

Tord:骨身になってきたって感じ?

Dan:そうだね。慣れてきたっていうのもあるんだけど。

Matthew:自分のものになってきたっていう感覚があるよね。前作は昔からあった曲を収録した作品だったけど、この作品は、まず曲を作って、それからレコーディングしてっていう感じだから、ツアーに出てやっと曲が自分のものになってきたっていう感じなんだ。だから僕にとっては未だに新鮮味がある作品だね。

――リスナーの受け止め方は1stと2ndで違いがあると感じますか?

Matthew:それは特にないかな。もちろん州や国によって多少の違いはあるんだけど、ありがたいことに、どこに行っても最高のリアクションを返してくれてるんだ。2ndの曲もすごく良いって言ってくれる声もたくさん聞くしね。

Dan:ライヴでは新旧織りまぜたセットリストにしてるんだけど、違和感が全然ないんだ。縫い目なく繋がっていく感覚が自分たちの中でもあるし。2ndの曲の方がエレクトロの要素が多いから、サウンドの響きも大きいんだけど……。

Tord:だからこそ、昔の曲と並べた時にメリハリが出るんじゃないかな。そういうところが面白いよね。

――確かに2ndを初めて聴いて印象的だったのは、今おっしゃられたようなエレクトロの要素で。曲によってはシンセサイザーの音が全面に出ている曲もありますよね。そうしたサウンドが生まれてくるに至った経緯は?

Matthew:ある意味そうなる必要性があったんだ。自分たちが変化して、そして進化していくためにね。それに、ギターの音が引っ張っていくアルバムを作るということに、少なくともあの時点で僕たちは興奮を覚えなかったし、面白いと思えなかったんだ。もちろんこの先も絶対やらないっていうワケじゃなくて、将来的にはまたそうした曲を作るかもしれないけれど、今回は違うことをやってみたいなって思う中で、自分たちなりにこの音はクールだな、こういうサウンドにしたいなっていうのを求めていった結果、それがシンセサイザーだったんだよ。

Dan:僕らはそれぞれ影響を受けた音楽が結構違うんだけど、今回はその中でエレクトロっていうのが全面に出てきたんだと思う。そういう意味で言うと、全員がKraftwerkやDepeche Modeが好きだから、その一致した部分が強調されたんだろうね。1stの頃からそういう要素はあったと思うけど、今回と同じような形では出ていなかったのかも。それが何故かって考えると、1stの時はスタジオで3週間っていう作業だったのが、今回は1日中かけてギターの音を作ったり、シンセをいじってつまみを回してみたりだとか、そういう日々をずっと過ごして時間をかけて作ったからっていうのが大きいんじゃないかな。

――なるほど。加えて2ndは様々なプロデューサーと仕事をされていますよね。そこでの発見や特に印象に残った出来事はありましたか?

Matthew:確かにたくさんのプロデューサーと仕事をしたけど、だからって僕らが知らなかった秘密の扉を開けてもらったっていう感じはないんだよ(笑)。でも自分たちが思っていた以上に、広がりのあるサウンドが作れたし、それを引き出してくれた気がするね。みんな個性的だったんだけど、そうだな、特に印象に残っているのはEric ValentineとRich Costeyかな。

Tord:やっぱり、一緒に過ごした期間も彼らが一番長かったしね。

Dan:収録曲の7~8曲はその2人と作ってるからね。残りを他のプロデューサーと1曲ずつって感じで、制作期間の長さが印象の強さに繋がってる部分も大きいと思うけどね。プロデューサーっていうのは、ある程度完成形となっているものをネクスト・レベルまで持ち上げてくれる、その手伝いをしてくれる存在なんだ。やっぱりテクニックとかサウンドの作り方、例えば、シンセやギターはどうすれば一番良い音が出せるかとか、ペダルの使い方とか、そういうことに関しては僕らはプロデューサーには敵わない。だから、そういった部分で力を借りたんだ。そういう作業をスタジオで一緒にやるチャンスをもらえたってことは、僕らとしてもエキサイティングだったね。誰も焦らせたりしないで、時間をかけて機材も十分使わせてくれて楽しかったよ!

Tord:特にRichはシンセのパッチングの前で、ケーブルを首に巻きつけて歩いてるような人なんだ。

Dan:まるでマッド・サイエンティスト状態だよ(笑)! 「これは’70年代のシンセなんだよ」って、そういうすごい機材を普通に持ってくるような感じでね。

Tord:とにかくそういう世界になると、僕らも憧れはあってもどこから手をつけて良いのかわからないからね。だから彼らの助けはすごく大きかったと思う。

――そうしたプロデューサーとの仕事の関係もあると思いますが、レコーディングをアメリカでしたことで何か作品に影響を与えた部分はありましたか?

Matthew:アメリカでレコーディングっていうのは、その通り、プロデューサーとの仕事の都合でっていうのもあって。Ericなんか文字通り、スタジオに住んじゃってるような人だしね(笑)。だから僕たち3人が向こうに飛んだ方が、スタジオに機材も人も揃ってるわけだし、効率が良かったんだ。

Tord:向こうのスタジオって本当スゴイんだ! 音楽業界の中心地っていうこともあって、電話1本でアンプだろうがキーボードだろうが、70年代のシンセだろうが(笑)、必要なものが届いちゃうんだ。どうなってんだかわかんないけど、とにかく必要なものは全部揃う(笑)。

Dan:曲作りからかなり時間をかけたってさっき言ったけど、デモ作りはリバプールで1年半かけてたから、いざ本番のレコーディングをしようってなった時、少なくともリバプールは出たいなって思って(笑)。国を出ることまでは考えてなかったんだけど、もしどこかに別の場所でってことであれば、例えばフランスの農場だって良かったし、とにかく1日13時間くらいスタジオに籠るってことはわかってたから、友だちにも会えないだろうし家族にも会えない、そういうことは全然関係ない状況になるのは当然だしね。とにかくどこか違う所でっていうのは最初から考えてたんだ。

――今回、歌詞がすごく焦燥感を感じさせますよね。その感覚がアッパーなサウンドの力で“救われる”という気持ちに変化します。まさにキャッチに使っていらっしゃったような“処方箋”“抗うつ剤”の効力を発揮しているなと。ご自身たちの中で、それを意識した部分はあったのでしょうか?

Matthew:意識してそうしたわけではないけど、1stの時は割と一元的にパーティの要素を扱った曲が多かったと思う。でも今回はそれとは違って、もうちょっと個人的で意味深いことを書きたいなっていう気持ちがあって。例えば、クラブに遊びに行って倒れるまでお酒を飲んで……なんてことを曲にしようっていっても限界があるんだ(笑)。だから今回はもうちょっとヘヴィーなトピックに取り組んで、君が言ったような高揚感がある音楽と組み合わせた時に、さあどうなるかっていうのが、僕たちの挑戦だったと思う。そこに自分たちのユニークさもあると思ったしね。

Dan:でも1stだってただ能天気なだけじゃなかったと思うよ。確かに聴くとハッピーになる曲が多いんだけど、詞を掘り下げると裏があるというか、音で聴くほどアッパーじゃないっていうことに気がついてくれてた人は多かったみたい。ただ、今回は扱ってる詞の題材がよりダークになって、音の響きはより明るくなったっていう、その組み合わせの強弱が強調されたんだと思う。

――「Tokyo」という曲は“現実逃避”がテーマだと訊いたのですが、その逃避の地にここ東京が浮かんだのは何故でしょうか?

Matthew:初めて来た時に、とにかくインスピレーションを受ける街だなって、すごく楽しくて良い経験をさせてもらったんだ。まさか自分が東京に来ることができるなんて思ってなかったからね。この経験をすべてものにしたくって、まあ、僕らの歴史に伝説として残るような夜も体験したし(笑)。2ndを作っている時に、また動き出すんだって思ったら、その時の体験が蘇ってくる感覚があってさ。

Dan:確かに“逃避”っていう部分で言うと、僕らの曲には「Tokyo」に限らずそういう要素があって、時間から逃れたいっていう感覚や、状況がハードでそこからなんとか逃げ出したいっていうような想いを歌っているんだ。

――さて、早くも次回作が楽しみですが、もし構想があればヒントを教えてもらえると嬉しいです。

Matthew:去年のクリスマスの前後で2ヵ月くらい休みがあって、実はそこで色々曲のアイデアが湧いてきたんだ。だから考え始めてはいるよ。3rdは1stと2ndよりもスパンを空けたくなくて。もちろん必要なことはそれだけやらないといけないんだけど、確実に動き出しているんだ。希望としては夏の後には制作に入りたいから、構想はすぐにも始めていきたいね。


■New Release

ディス・モダン・グリッチ ~ポップ中毒患者への処方箋~ / ザ・ウォンバッツ / CD ( Music )

ホステス( 2011-09-21 )

定価:¥ 2,561 ( 中古価格 ¥ 48 より )