情感を含んだギターを爪弾き、時に扇情的に、時に退廃的に甘美な音を形作るAnna Calvi。昨年、1stアルバム『Anna Calvi』をリリースし、わずか1年足らずでAlex Turner(Arctic MonkeysのVo&Gt)、Brian Enoらさまざまなアーティストを魅了した。この深い音像を組み立てるのは一体どんな人物なのだろうか。インタビュー当日に現れたのは、華奢でシャイな印象の美少女。美しく抒情的で、力強さも感じられるギターサウンドから想像していた彼女とは異なり、ガラスのような繊細さが漂っていた。しかし、ゆっくりと紡がれる言葉には、彼女の意志の強さがくっきりと表れ、“音楽”に対する確固たる思いがにじみ出ていた。

Artist:Anna Calvi
Interview & Text:Mio Yamada

――1stアルバム『Anna Calvi』をリリースしてから約1年。いろいろな出来事があり、激動の1年だったと思いますが、振り返ってみてどのような年でしたか?

Anna Calvi:本当に素晴らしい1年だったわ。ツアーができて大勢の人の前でプレイできたことも含め、ハイライトになるような出来事もたくさん。そのなかでも印象的だったのは、Brian Enoと会えて、仕事ができたっていうことが大きいかな。

――Brian Enoとの仕事は大きな収穫があったようですが、今までの自分にはなかったような発見、今後のキャリアに繋がるようなものはありましたか?

Anna:とにかくすごくサポートをして、励ましてくれたっていうことが何よりも大きかったの。スタジオに来てくれて、バッキング・ヴォーカルもやってくれて。Brianがいるスタジオにいられたこともそうだし、簡単なことのように聞こえるかもしれないけれど、とにかく前向きで熱心な彼に接することはすごく刺激になったわ。

――具体的にアドバイスをもらうことはありましたか?

Anna:特にこれといったものはないんだけれど、とにかく励ましてくれたの。

――あなたの楽曲へのアプローチは、良い意味で中性的だなと感じていて。「女性だから」と言って甘すぎるわけでもなく、ギターもパワフルになりすぎることもなく繊細な美しさを保っていますよね。その透明感が魅力的だなと感じたのですが、楽曲に対してはどのようにアプローチしたいと考えているのでしょうか?

Anna:私自身は、すごく美しくて情熱的な作品をつくりたいと思っているの。1曲1曲に雰囲気を持たせて、1曲1曲が短編映画のような作品がつくりたい。それから、私は映像をイメージして曲をつくるんだけど、それをそのまま歌詞だけで伝えるんじゃなくて、音楽を通して物語を伝えたいと思っているの。音楽というのは男性・女性という性を越えた存在あでるべきだと思うから、「男性的な音を出したい」「女性的な音を出したい」と思った時には、表現したいことを素直に出せばいいと思うわ。

――音楽をつくる上で、映像や短編映画を意識しているということですが、確かにあなたのサウンドは映像を目の当たりにしているような気持ちになります。ギターが印象的な1曲目「Rider To The Sea」は、Wim Wenders監督のロードムービー『Paris,Texas』でRy Cooderが見せた情景を彷彿とさせるものがありました。自分の体験を反映させた物語にしようという思いは強いのでしょうか?

Anna:無意識に自分の体験が反映されているのかもしれない。実際、つくっている時は感じたまま書いていくんだけど、特に歌詞は書いているときからしっかりと出来上がったものがすらすらと出てくるの。そういうのって、自分のなかで何か言わなければいけないものがあるからじゃないかしら。後で聴き返してみると、自分が何かを体験したときのことだったり、身の回りで起きたことが反映されているんだなって思うこともあるし。聴いた人に解釈してほしいから、詳しくは説明しないけどね。

――今回のアルバムは、歌詞とサウンドが融合して、非常に抒情的な世界観が構築されていますが、自分が最も投影されている楽曲は?

Anna:10曲目の「Love Won’t Be Leaving」かしら。この曲は、レコーディングに非常に長い時間を費やしたの。ヴァイオリンのパートは全部自分で弾いたし、コーラスやハーモニーの部分も全部私が歌ったわ。すごくこだわりを持って、全部を自分の手でつくりあげた曲だから、音楽的に私がやりたいことを反映していると思う。それだけじゃなくて、世界観、雰囲気もすごく持っているしね。情熱的であるけれど、ただロックになるのではなく、そこにオーケストラの要素を取り入れて融合したところが、私が音楽的にやりたいところと合致したんだと思うわ。

――なるほど。ロックというジャンルに偏るのではなく、オーケストラを取り入れたかったということですが、“ジャンルを越えた音楽のクロスオーヴァー”が、今後音楽に取り組む上でやっていきたいことなのでしょうか?

Anna:そうだと思う。実際に私が影響を受けた音楽の幅も広いし、昔からクラシックもすごく聴いてきたわ。そもそも、“ロック”という表現も好きじゃないの。だからと言って、どんな表現が好きなのかはわからないんだけれど(笑)。いろんな音楽のスタイルを融合させたいなっていう気持ちは強いわね。

――本当にさまざまな音楽をバックグラウンドに持っていますよね。幼少期からクラシックに親しまれていますが、“印象派の音楽”というDebussyやRavelの音楽に対する解釈がすごくおもしろいなと思っていて。どのように自分の音楽に落とし込んでいるのでしょう?

Anna:Debussyたちが活躍していた時代は、ちょうど印象派の画家が活躍していた時代だったんだけど、彼らも多くの画家と同じように、「現実をありのまま表現するのではなく、ある瞬間を光を使って、物事を自分の世界観の中につくりあげる」ということを試みていたの。Debussyの作品で「Reflections in the Water」という曲が大好きなんだけど、この曲は、空間や雰囲気、情緒感をひとつの曲にしていて、そのときの“瞬間”ていうものがすごく表れているの。それは私にとってもすごく大事なことで、ただ歌詞を書いてギターを弾きながら歌うよりも、世界観、雰囲気をつくりながら歌いたいと思っているから、すごく共感しているわ。

――自分の中に秘めた情熱や世界観をものすごく大事にしていますよね。楽曲づくりの原動力になるのはどんなことでしょうか? 自分のなかの感情?

Anna:いろんなものがあるの。好きな映画を見て曲を書きたいと思うこともあるし。自分の感情を伝える手段としての“音楽”もすごく自然な姿だから、自分が持っている気持ちを伝えるためにっていうことがきっかけになることもあるわ。

――昨日は、Billboard-LIVEで日本初ライヴでしたね! 初めて訪れた土地でのライヴ体験で、今後の楽曲づくりやパフォーマンスへのインスピレーションになるものはありましたか?

Anna:新しい場所でプレイするのは、本当に興味深いの。行く場所や国によって、お客さんの反応もまったく違うし。昨日のライヴは、個人的にもとても楽しかった! でも、だからと言って特定のライヴや観客の反応が、その後の作品やパフォーマンスに直接影響を与えるわけではないわ。というよりも、その場、その瞬間の自分から湧き出るものにお客さんの反応が影響すると思うの。明日のライヴ(Hostess Club Weekender2日目)も、1曲目のタイトルやいくつかのことは事前に決めているけど、お客さんの反応で曲順を変えたり、その場で自分が感じたものを大事にしたいと思う。インプロビゼーション(即興)もすごく大切にしたいし、そういった形で取り組むことで演奏する側も常に新鮮な気持ちでパフォーマンスができると思うわ。

――どの楽曲を聴いても、あなたならではの美しくて内発的な世界を築き上げていますよね。その世界を通して、リスナーに伝えたいとものはありますか?

Anna:自分がつくった後は、聴き手が何を感じようと、音楽から何を得ようと、私は構わないの。感じるものはその人次第のものだし、主観的なものだと思うから。聴いてくれる人が私の音楽から何を感じたとしても、その思いはその人のものなのよ。

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