■音楽にジャンルは関係ない、そんな当たり前のこと

音楽は、ある人々の生活に深く根ざしている。「そんなこと言われなくても分かってる、音楽がないと生きていけない」という意見は至極真っ当。だが、彼の音楽は、いちリスナーがある好みの音楽を聴くようなそれではなくて、文字通り彼にとっての生活と、彼を取り巻く人々に密接に関わっている。ネイサン・タスカーは、シンガー・ソングライターであり、同時に敬虔なクリスチャンでもある。現在はアメリカに拠点を移しているが、元々はオーストラリアの小さな教会で、キリスト教のエピソードを自分の音楽に乗せて歌っていた。つまり、彼の目的はキリスト教の理解を深め、広げるためであり、音楽はそれを伝えるためのツールなのだ。それゆえ彼の音楽は”宗教音楽”とカテゴライズされる。彼の歌に出てくる”You”は常に神のことを指しているし、実際に歌詞に”God”や”Bible”、”Jesus”といった言葉が多用される。と聞くと、何だか敬遠する人もいるかもしれない。実際、「キリストのことだけではなくて、万人受けしそうな恋愛のことなんかを歌えば、絶対もっと売れるのに」という意見があるのも確か。でも、彼の音楽は商業的成功を目的としている訳ではないのだ。私はクリスチャンではないし、これからキリスト教に改宗しようとも思わない。でも、彼の創る美しいメロディと、琴線に触れるような透明感のある声は、純粋に聴く者の心を打つ。ジャンルに抵抗があるという理由だけで聴かないなら、素晴らしい一人のアーティストの音楽を知る機会を失っている、ただそれだけのこと。今日も彼は小さな子供たちを前に、教会でギターを抱えて歌っている。

Text by:Ayaka Ito